突然の訪問者。

鳴海歩と結崎ひよのの姿にしばらくまどたかは固まっていたが。

あゆむがひらりと部屋の中へ舞いこむと

「ちょっ……お前……っ」

慌てて、動き出した。

 

 

 

スパイラル〜推理の絆 if

    第四話 ウォ―ド錠の密室 前編

 

 

 

まどたかの制止をさらりと無視し、歩は雷子の傍に寄った。

「野原瑞樹のことを聞かせてほしいんだけど」

「……誰かしら、それは」

雷子の声は静かである。しかし、歩も引かない。

「彼は『死の聖樹幹』の主に逃亡を助けてもらう約束だった……つまり、あんたにね」

ふ、と歩は不敵な笑みを浮かべて続ける。

「アララギはギリシャ神話の女神ヘカテの聖樹。その意味は『死』……つまり、『死の聖樹』だ」

「今はここ、『アララギ館』って呼ばれてますけど。設計者には『死の聖樹館』って名づけられるんです」

歩をフォローするように窓の外に佇むひよのが口を開く。

「お館写真集ではそっちの名前でのってました」

「つーこと」

ひよのから視線を戻し、歩は問うた。

「……あんた。何か知ってるんでしょ?」

――瞬間。

 

ヒュンッ!

 

雷子の手にあった杖が、歩めがけて振り下ろされた。

が、すかさずそれを受け止める歩。

杖を振り下ろされたことを何とも感じていないように、ふっと微笑み

「……『ブレードチルドレン』のこと。知らないとは言わせない」

雷子はじっと歩を見据えると。

「……無礼な小娘だこと」

歩を、睨みつけた。

 

 

一方、先ほど事情聴取が行われた部屋では小夜が未だソファに座っていた。

「あの忍び込んだ二人、小夜の知ってる子?」

と、扉を開けて圭が部屋に戻ってくる。

「えらく荒っぽく叩き出されてたけど……」

「ああ、圭さん。いえ、知らない人ですけど」

「そう……あーでもなあ」

ううん、と悩む表情を浮かべて

「あの女の子、どっかで見たことがあるんだよな……」

圭は眉を寄せた。

 

 

 

翌日の昼休み。

ひよのと歩はともに屋上にいた。

「例の事件、どうするんですか?」

パンを一口食べて訊ねるひよのに

「どうするっていってもなあ……」

寝転がった歩が答える。

「事件に関する情報は全然ないし、にーさんは何も話さないし。『ブレード・チルドレン』は相変わらず謎だし」

むくりと起きあがり、歩は呟いた。

「……館については私が教えてやったのに」

きゅ、と眉根を寄せて

「ひとりで無理して……」

どこか辛そうな表情で文句を吐いた。

「……やっぱり、お兄さんなんですね」

「?」

そっぽを向いたひよのに目を瞬かせる歩――と、二人の前に影が降った。

思わず顔をあげる二人。

「……昨日、うちに忍び込んだ方ですよね」

白長谷小夜。

少年特有のはかなさをまとわせて、彼は問うた。

「ええ。そうだけど?」

「……あの」

歩の答えに躊躇いながら、小夜は口を開いた。

「あなたは僕の過去を知ってるんですか……?」

 

 

 

そのころの警視庁。

「大収穫ですよ、警部補〜!」

嬉々とした表情で和田谷がまどたかの傍に寄ってくる。

「あの被害者、近々大金が手に入るようなことを言ってたんです」

「大金?」

「はい。彼は心臓に障害があって、ちょっとした負担で危険な種類の発作を起こすくらい悪かったんですよ。根治には相当な手術費用がかかるんでこれまで薬でしのいでいたんですけど……最近、かかりつけの先生に『金が出来るから手術を』と言ってたんですよ」

和田谷の言葉に、まどたかの切れ長の瞳が細くなる。

「仕事・親戚・友人どれからも金の入る予定は見られません。考えられるのは――」

「強請……」

「ええ。相手はきっと白長谷雷子ですよ。あの夜、二人は金のことで口論になったんです。絶対、『ブレードチルドレン』がらみで強みがあるんですっ!!」

「……となると」

和田谷の熱さもどこ吹く風。

まどたかは淡々と机の上の写真をとりあげた。

「この子か……」

そこには、白長谷小夜が写っていた。

 

 

「記憶喪失?」

疑問の声をあげる歩に、小夜は額の髪をかきあげると

「おばあさまの話では、12歳のとき階段から謝って落ちたショックで……だから、それ以前の記憶が全然ないんです」

額から手を離し、小夜は続ける。

「その上、僕には過去を知る手がかりが全くありません。写真一枚ないんです。探そうとするといつもおばあさまが止めて……おばあさまはとても僕を大事にしてくれますし、不満があるわけではないんです。でも……こう、不安定で……」

「その上、最近おかしなことがおこりだした?」

歩は小夜の話を黙って聞いている。

目が、小夜を追っていた。

「この前殺された野原瑞樹さん。それに昨日の足立さん……お二人とも事件のずっと前に僕にブレードがどうとか話しかけてきて。分からないので記憶のことを言うと「へぇ」と言ってそれっきり……」

ぎゅっと拳を握り締め

「二人とも僕の過去を知っているようで……それで」

歩をおそるおそる見据えた。

「それでひょっとしたらあなたもそうじゃないかと」

ふうん、と頷き歩はひよのを見やった。

「事件に関する出来る限りの情報がほしい。頼める?」

「了解!」

ひよのはぴょこんっと敬礼してみせた。

「事件は、あんたの家族とか今の幸せとか全部壊してしまうかもしれないのよ……」

歩の問いに小夜は目を閉じた。

「記憶がないせいか、今の家族も幸せも現実感がないんです。全部急ごしらえの贋物みたいで……だったら――」

 

壊れたって、いい。

 

あとの言葉を飲み込む小夜。

歩はじっと小夜を見つめた。

 

 

 

「ねえ、警部補」

和田谷の呼びかけに、ちらりとまどたかは視線をやった。

二人はアララギ館、白長谷の屋敷の廊下を歩いている。

「犯人はどうして死体を図書室に放置したんでしょうか。小夜君が毎朝くるのは皆知ってるんです。普通見つからないところに隠そうとしません?あそこで発見されたんで容疑者がぐっと狭まり犯人の不利になったんでしょ?」

疑問の表情を浮かべる和田谷。

「ダイイングメッセージも変ですよ。あんなの犯人にとって絶対危険なのにどうしてそのままにしたんでしょう。それに密室だって……あれ、何かメリットあります?」

顎に手をやり、悩む風を見せながら

「大体ドアも窓も完全でどんなトリックを使ったのやら」

「単純な時間さトリックだよ。それで疑問は全部氷解する」

まどたかの冷静な声。

和田谷は思わず目を見開いて、声をあげた。

「まさか警部補、もう全部分かって……?」

和田谷の言葉に、まどたかは艶然と微笑んで見せた。

 

 

 

「――以上が事件に関する警察の全データです」

にんまり。

そう見てとれる笑みを浮かべてひよのは手帳を閉じた。

呆れる歩と小夜。

「いったいどうやってそんなもの」

「企業秘密です♪」

歩の呆れにひよのは微笑みで返す。

「……あ、そうそう。1つ確認しときたいんだけど」

とりあえずと小夜に向き直り歩は

「あんたの祖母さん……なのか?」

歩の問いに、小夜は

「ええ。そうですけど……どうして気づかれたんですか?」

驚いた様子で訊ねる。

「ん、ちょっとね。……すると」

頭の中で疑問が答えになって行く。それを感じながら歩は眉を顰める。

 

密室にしては妙なことが多い。

それに1つ欠けてるよな……。

 

「そっか。あるべきものがどこにもないんだ……すると……」

「そういえばお兄さん」

ひよのはぴ、と人差指を立てると

「時間差トリックって言ってたそうですよ」

「時間差……」

その言葉を聞き、歩の顔色が変わった。

「バカ……焦ったわね!そいつは違うっ!!」

 

 

 

紅茶を注ぐ音がする。

雷子の私室。

初山レイが紅茶を注ぎ、雷子の前に差し出す。

雷子の視線。

それは壁の写真に注がれていた。

 

小夜と自分の写真に。

 


 

これにて、第四話終了ですv

意外と雷子さんは書いていて楽しかったりしました(爆)

次にアップするパラレル螺旋は

アイズ登場の第7話です。

気長にお待ちくださいませv(待ってる人いるんかい……)

 

 

 

 

 


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