限られた時間を無限にする魔法を。

どうかこの刻だけでも。

愛しい人と共にいるから。

 

 

 

魔法のレストラン

 

 

 

カレンダーについた赤い印を数える。

 

いち、にぃ、さん。

 

今日から赤丸まであと三日。

ラクスは微笑み、テーブルでぽよんぽよん跳ねるピンクのハロを見やった。

「あと三日ですよ、ピンクちゃん?」

『てやんでィッ』

「久しぶりに会えるんですのね……アスランと」

『ラクス〜?』

首を傾げるピンクのハロをつついて、ラクスはもう1度カレンダーを見据えた。

「……楽しい一日しましょうね?」

『オマエもナー!!』

ぴょん、と勢いよくハロは飛びあがった。

そんなハロに微笑みかける、と。

ラクスは思い立ったような顔をして、ドレスの裾を翻すと自室を出て行った。

「アリスさん?ちょっとお願いがあるんですけれど……」

そう呼びかけながら。

 

 

 

……少し、遅れたかな?

わずかに息を弾ませ、アスランはクライン邸の玄関に駆けつけた。

抱えた花束ががさがさと揺れる。

約束の日を楽しみにしていたはいいが、遅れてしまうとは……。

溜め息をついて、アスランはチャイムを鳴らした。

聞き慣れたチャイム音が響く。

しかし、誰も出てこない。

「……?」

もう一度鳴らす。

するとようやく、扉の向こう側から足音が聞こえて来た。

ぱたぱたと軽やかな足音。

「申し訳ありません、アスラン!」

言いながら、ラクスが扉を開ける。

いつもは見たことのない、やや慌てた様子のラクスにアスランは目を瞬かせた。

「ど、どうしたんですか?ラクス」

「ええ。ちょっと……」

曖昧に言葉を濁し

「さぁどうぞ、お入りください」

ラクスはアスランを中へと導きいれた。

「お邪魔します。あ、ラクス、これを……」

一歩足を踏み入れて、アスランは手にしていた花束を渡す。

「まぁ!ありがとう」

大きな花束を受け取り微笑むラクスに、アスランもつられて微笑む。

「しばらくはいつものテラスに座っていてくださいな。すぐに私も参りますから」

「ええ……あの」

「はい?」

テラスに向かう道すがら、アスランはふとラクスに訊ねた。

「今、何かしていたのですか?」

「……どうしてですの?」

肩口から振り返る微笑みは穏やかで、蕩けるように愛らしい。

しかし、どことなくいつもと違うものを感じてアスランは首を傾げた。

「いえ、何となく……」

「内緒ですわ」

「え?」

ラクスの呟いた言葉が聞き取れず、さらにアスランは首を傾げたが。

当の本人はふわふわとした微笑を浮かべたまま、疑問に答えようとはしなかった。

 

 

 

「……何か隠しているんだろうか?」

『オマエモナー!ハロ、ラクス〜!』

「それか……俺、何かしたかな?」

『テヤンデイ!ミトメタクナイ!!』

「……どこで覚えたんだ?その言葉」

『ハロハロ。あーそーぼ?』

「……はぁ」

溜め息1つ、アスランは目の前で弾け飛ぶピンクのハロをつついた。

テラスにアスランを案内して、すぐにラクスは姿を消した。

『すぐに参りますわ』

と言ってから、もう随分と時間が経っている。

訪れるたび、共に語り、お茶をしてくれる彼女がいない。

何かがぽっかりと空いた気分で、アスランはさらにピンクのハロをつついた。

「それとも早く来過ぎたかな……」

だが約束の時間を指定したのは彼女。

次の日が休日の日をわざわざ選んだのだ。

テラスから外を見ると、空が暗くなり始めていた。

もうすぐ夜がやってくる。

温くなってしまった紅茶を口にして、アスランは椅子の背もたれに身を預けた。

次の瞬間。

「だぁーれだっ」

「!?」

いきなり視界が真っ暗になり、アスランは動きを止めた。

「さぁ、私は誰でしょう?」

くすくすとからかうような笑い声。間違うはずもない。

「ラ、ラクス?」

目を覆う手に触れて、そっとその手を外す。

「正解ですわ」

「驚かさないでください……!」

いつのまにそこにいたのか。

にこにこ微笑むラクスが、アスランの後ろに立っていた。

「お一人にしてごめんなさい、アスラン。ようやく準備が出来ましたの」

「え?」

「さぁ、参りましょう?」

差し出されたラクスの手。アスランはそれをおずおずと握り締めた。

「久しぶりに会いに来て下さったでしょう?私、今日はとても楽しい一日にしたいと思いましたの」

「それは……」

ラクスの言葉に、アスランの頬がわずかに緩む。

恥ずかしさと嬉しさに目を背けるアスラン。

思わず、ラクスの手を強く握り締める。

「だから、ぜひと思いまして準備をしていたのですけれど。思ったより手間取ってしまって」

ラクスの足が向かう先は食堂だった。

何となくラクスの言う『準備』の正体が見えては来たが、

「準備……というと?」

確かめるため、アスランが訊ねると

「……見てのお楽しみですわ」

質問には答えず微笑んで、ラクスは食堂の扉を押し開けた。

いつもは大きなテーブルが一つある食堂には、小さな丸テーブルが一つだけ置かれていた。

食卓の上には、アスランの送った花が生けてある。

瞬く蝋燭の影が、白のクロスに映っていた。

「どうぞ、お座りになって」

「え、ええ」

椅子をひくラクス。

多少悪い気がしつつも、アスランは椅子に腰かけた。

「準備というのは……このことだったのですか?」

「はい。明日はお休みでしょう?だから、私たちの一日を今から始めるのですわ」

「ラクス……」

運ばれて来たワゴンをラクスは受け取ると、テーブルの傍へと押してきた。

「まずはお食事から。ゆっくりいただきましょうね」

銀の蓋をかぶった皿をアスランの前に置くラクス。

何だろう、と覗き込むアスランの顔が銀の蓋に映った。

「さぁアスラン、召しあがれ」

優しく微笑み、蓋をとるラクス。

ふわりと鼻をくすぐる匂いと皿の上にある料理にアスランは息を呑んだ。

「これは……」

「ロールキャベツ、ですわ。アスランがお好きだと聞きましたので」

そう言えば、いつかそんなことを言った気がする。

白いボウルにたっぷりのスープと鮮やかな色したキャベツ。

「これを……準備していたのですか?」

驚くアスランにラクスは続ける。

「はい。初めて作ったものですからお口に合わないかもしれませんが……」

こぼれんばかりにラクスは微笑んで

「アスランのために、作りました」

「ラクス……」

ラクスの言葉に胸の中にじんと熱いものを感じたが、アスランはただ不器用に微笑むしか出来なかった。

「さぁどうぞ、召しあがってください。お食事が終わったら、たくさんお話しましょうね」

「……はい」

しっかと頷いて、アスランはラクスを見据えた。

紫の瞳が、穏やかに微笑んでいる。

温かな心地になりながら、アスランの手はフォークに伸びた。

 

 

 

その夜。

クライン邸のとある一室から明かりが消えることは、なかった。

 


 

誤字報告リク、あまあまアスラクでした。

原作の衝撃を受けながら書いたのであまり

甘くないかもしれませんが(泣)ラクスのだーれだ!と

ロールキャベツネタでそこをなんとか

よろしくお願いします(蹴)

蓬生蛍様、リク&誤字報告、ありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 


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