少し寒くても。

君さえいれば

だいじょうぶ。

 

 

 

君とココアとマフラーと

 

 

 

「ひゃ〜っ!寒いですねぇ」

校門を出た途端、ひよののか細い悲鳴があがった。

手袋を擦り合わせて、息を吐けば白い息。

「そりゃ、な」

当たり前のことを言うなと言いたげに歩が言うと、これまた白い息。

首元で垂れたマフラーを引き上げる。

「さっさと帰ろうぜ」

「はいっ!」

寒さに戸惑うひよのは、歩の一言で昇降口を飛び出した。

そのまま勢いで歩の腕を引ったくり、抱きつく。

「っ!……痛いだろ」

「気をつけますっ」

照れたように呟く歩に、ひよのは嬉しそうに笑った。

 

今日、秋も深まった、特別に寒い日の夕方。

帰り道を二人で歩く。

腕を組みながら、冬の装いを見せ始めた帰り道を歩く。

 

「すっかり冬ですね」

「まだカレンダーは秋だけどな……」

「この間食べた栗ご飯は美味しかったですねぇ」

「また作ってやるよ」

「待ってました!」

 

他愛ない会話が嬉しくて楽しくて。

顔を見合わせ、歩調を合わせながら、歩く。

 

「あ、そういえば鳴海さん!」

「ん?」

「この間、そこに美味しいカフェが出来たんですよ。寄りませんか?」

ひよのの誘いに頷く歩。

「行ってみるか?」

「はい!」

連れ立つ二人の足が、軽やかに方向を変えた。

 

 

 

店内は温かい。

人の熱気か、それとも暖房のせいなのか。

心地よい温さに浸りながら歩とひよのはテーブルを挟んで向き合っていた。

トレーに広がるのは白い皿にたくさん載ったクリームデニッシュやチョコレートマフィン。

そして、暖かな湯気をたてているココア。

うきうきとテーブルに戻ってきたひよのが持つそれらを見て歩は一言言った。

「太るぞ」

む、としてひよのがテーブルを見ると、歩のトレーには珈琲と小さなドーナツが二つ。

「いいんですっ」

少々拗ねた口調でひよのは、マフィンをちぎる。

「甘いものは疲れた体と頭にいいんですよ」

「疲れるほど使ってないくせに……」

「!?」

「嘘だ。ほら、口についてるぞ」

さらりとした顔で冗談を言い放ち、歩はひよのの頬に手を伸ばした。

唇の横についたマフィンのかけらを親指で取り払う。

まるで唇のふちをなぞるように。

「な、鳴海さ……」

顔を赤らめるひよのにさらなる追い討ちをかけるかのように。

歩は取り払ったマフィンのかけらを自らの口へと運んだ。

「!!」

「思ったより甘くないんだな」

優しく目を細めて、歩は珈琲を飲む。

「これぐらいなら作れるぞ」

「あのですねぇ鳴海さん? こ、こんなところで何するんですかっ」

「何って?」

平然とする歩に、ひよのは肩の力を抜いてまたマフィンを一口。

「もういいです……」

言っても無駄。

悟ったひよのはココアを口にする。

「あつっ……」

「気をつけろ。これ、結構熱い」

言う歩もまた、珈琲で唇をやけどしたらしい。

苦い顔をして眉をひそめている。

そんな歩を微笑みながら見つめて、ひよのは言った。

「でもきっと、外で飲んでも美味しいようにしてあるんでしょうね」

「何でそう思うんだ?」

「だって、外は寒いじゃないですか」

「それで?」

「……え」

「で?」

「う……」

言葉に詰まるひよの。がっくり肩を落としつつも

「寒い外で暖かいココア飲むと気持ちも暖かくなりませんか……?」

と呟いた。

「そうだな」

何だ、そういうことかと付けたし歩はドーナツを口にする。

「だが、一人で飲むほどむなしいものはないぞ」

「そ、そりゃ、そうですけどっ」

「誰かと一緒なら、むなしくはないだろうけどな」

「……」

ココアのカップをトレーにおいて、ひよのは頷く。

「なら、鳴海さんがココアを飲むときは私が一緒にいてあげますよ」

その言葉を待っていたかのように。

「……ああ」

歩は微笑んだ。

 

 

 

カフェを出ると、外はすっかり暗くなっていた。

夏と違って、夜が訪れるのが早い。

通りを街灯の明かりが照らしていた。

ありがとうございました、の挨拶に押されて店を出る。

何だかんだいって、結構長居し、時刻は今七時。

「随分しゃべったな」

「そうですねぇ……ココア、二杯もお代わりしちゃいました」

「飲みすぎだ。そりゃ」

「ええ。おかげで口の中、甘いです」

歩き出す二人。

寒さは夕方の比ではなく、ぐっと冷え込んでいる。

「時間、大丈夫だったか?」

「大丈夫ですよ! 多分、家に帰ってもまだ誰も帰ってないでしょうし……」

「なら、うちくるか?」

言って、歩は腕時計を見た。

「ねーさん夜勤だろうし。飯食っていけよ」

「いいんですか!?」

歩の口から出た意外な誘いに、ひよのは目を瞬かせた。

「何だよ」

「いや……鳴海さんがそんな優しい言葉かけてくれるなんて、明日は槍が降りますねぇ」

くすくす笑いながら、ひよのは空を仰ぐしぐさを見せた。

「俺を何だと思ってんだ、あんた……」

「冗談ですっ」

にっこり笑うひよの。

さぁ行きましょう、と歩の手を握り締めて歩き出す。

引っ張られる形で歩きながらも、歩は暖かい笑みを浮かべていた。

「ところで、今日の夕食は何ですか?」

「さあな。何がいい?」

「えっとですね……口の中で甘いんで、辛いものが食べたいです」

「そうか」

頷き、歩は引っ張るひよのの手を軽く自分のほうへと引いた。

「? ぁ……」

ちゅ、と。

体が揺らめいた拍子に、歩の唇がそっと触れた。

「ん……っ」

そのまま手を伸ばし、後ろに手を回し、深く口付ける。

「ん、んっ」

口内を舐めるような、くすぐったい舌の感触にばたばたとひよのは身悶えした。

「な、なるみ、さ」

「確かに甘いな」

唇を離し、放った最初の一言。

一瞬ひよのはきょとんとしたが、やがてその意味がわかると顔を真っ赤にしてハリセンを取り出した。

「な、鳴海さん!? 何するんですかっ!!」

顔を真っ赤にして怒り出すひよのに歩は穏やかな視線を送りながら、彼女を右腕で抱きこんだ。

「!」

「さ、ぶーぶー言ってないで帰るぞ」

「……はぁい」

止まっていた足がやがて歩き出す。

ゆっくりと、足並みを揃えながら。


 

 

いただきましたキリリク鳴ひよあまらぶvでした。

んが本誌のダメージがわずかに残っているらしく(汗)

なかなか甘くならなかったかもしれませんが

どうかご容赦を……(土下座)

サクラサクさま、ありがとうございました!

またよろしければリクしてやって下さいvv

 

 

 

 

 


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