夕闇の中。

浮かびあがるのは夜の王国。

赤い提灯、人のざわめき。

 

 

 

時間よとまれ

 

 

 

小さい巾着が揺れている。

真っ赤な金魚を模した小さい巾着。

歩くたびに、下駄の音がからころと響き渡る。

ほのぐらい夜の中、浮かびあがる白地の浴衣。赤い金魚が泳いでいる。

「楽しそうだな、リオ」

からん。

また、下駄の音1つ。

髪をなびかせて振り返り、彼女は明るい笑顔で言った。

「うん!だって、アイズ君と一緒だもん」

「そうか」

微笑むアイズに手を伸ばし、彼の手を握り締めてから、理緒は再び歩き出した。

 

 

 

 

「夏祭り?」

「そう。いいでしょ?アイズ君」

時は少し戻ってホテルの一室。

楽譜に向かっていたアイズのもとを笑顔で訪れた理緒。

彼女が提案したのは、今日開催される夏祭りへの誘いであった。

「部屋にこもってばっかりだと、疲れちゃうよ?」

言いながら、アイズを覗き込む。

手渡されたチラシをじ、とアイズは見つめていたがやがて優しく微笑むと

「いいだろう。行こう」

と理緒の頭を優しく撫でつけた―……。

 

 

 

二人の行く手に、屋台の赤い提灯が見える。

「まず、最初に何しよう?」

「……何があるんだ?」

「そっか、アイズ君しらないのかぁ……」

そりゃそうかも、と理緒は心内で呟く。

今アイズが着ている浴衣――薄い灰色の――も、自分から着せたもの。

知っているわけがなく。

「じゃ、あたしがたくさん教えてあげるね、アイズ君っ」

理緒は任せて、と言いたげに胸を叩いた。

話しているうちに、二人は夏祭り会場の門をくぐる。

ここにはアイズを『ピアニスト』として知る者はいない。

いたとしても、皆、各々に夢中になっていて、誰も気づきやしない。

夜の闇。

赤い灯り。

独特の雰囲気に、知らずとアイズの蒼い瞳はあちらこちらに泳いでいた。

「まずは……冷たーいかき氷!もちろんメロン味だよ」

理緒にくいっと手を引っ張られて、視線を戻す。

「そうか」

「ブルーハワイもいいけど、舌が青くなっちゃうもん」

言って、理緒はべ、と小さく舌を出す。

「その後は……射的とか、輪投げもあるよ!あ、あとアイズ君っ、かき氷の前に綿菓子買って欲しいなぁ」

灯りが、理緒の笑顔を照らす。

楽しいとめいっぱいに笑うあどけない顔。

アイズの表情も柔らかくなる。

「慌てるな、リオ。1つずつだ」

「あっ……ごめん……」

アイズの窘められて、理緒は少々赤く顔を染めた。

「すごく久しぶりだから……アイズ君と出かけるの」

「リオ……」

きゅ、と手を絡ませる。

離さないで。

言葉なくとも言いながら、手を握り締めあう。

「じゃあ、まずは……かき氷、食べよ?」

理緒の瞳が、そっとアイズを伺った。

 

 

 

祭りの夜。

すぎるのもとても早い。

アイズと理緒は喧騒から少しだけ離れた、河原に座っていた。

まだ祭りは終わっていないが、両手が荷物で溢れてしまい、泣く泣く屋台めぐりを諦めたのだ。

「これ、ありがとう。アイズ君」

楽しさと興奮で顔を赤くした理緒。

その隣には大きなハムスターのビニール人形がいる。

あてもので見事に引き当てた一等賞の景品。

叩くと、べちべちとビニールの音がする。

「いや、気にするな」

「でもアイズ君も似合ってるよ、あたしのあげたヘアゴム」

言うと理緒はにこにこと、くくられたアイズの髪に視線をやった。

銀髪をまとめるのは、ウサギのついたゴム。

もちろんのこと、理緒が当てた景品である。

「……」

む、と顔を歪ませるアイズに理緒は笑った。

「でも楽しかったなぁ。大きな綿菓子も買えたし、焼きそばも食べたし、ヨーヨーも……」

「そうか?」

「うん!」

伺うアイズに笑顔を向けて、理緒は頷いた。

が、はたと動きを止めて

「そう言えば、アイズ君。やっぱり舌……青いの?」

と訊ねた。

先ほど食べたかき氷。

理緒はメロン味を食べたのが、アイズは理緒に押しきられる形でブルーハワイを頼んだのだった。

「分からないが……」

「舌、出してみて。べ、って」

物珍しそうにまじまじとアイズを覗き込む理緒。

う、とアイズは一歩後ろに退く。

「ねぇアイズ君?舌、見せて」

ね、ね、ね?

どこかからかう素振りをみせる理緒。

うう、と困るアイズ。

「……リオ」

「うん」

見せてくれるの?と首を傾げた理緒に、アイズの影が重なった。

「……!」

触れる唇。

唐突なキスに理緒の動きが止まる。

「あ、アイズ……君」

理緒の小さな手が、アイズの浴衣の上をさ迷い掴む。

そっと、唇が離れても小さな手は離れなかった。

「もう……」

顔を見るのが恥ずかしくて、そのまま、アイズの胸に持たれかかる。

もたれかかった理緒の肩を優しく抱き止めて、髪に頬寄せるアイズ。

 

 

と、そのときだった。

 

 

パァン!!

 

 

空が突如として明るくなる。

見上げると、夜空に咲く花火。

「きれい……」

思わず呟く理緒。

花火は何度となく、打ち上げられ空で輝く。

赤の色も。

黄の色も。

眩しいほどの光りをまとわせ、花火が踊る。

「今日は楽しかったか?リオ」

花火をじっと見上げる理緒に、アイズが尋ねる。

「……うん!!」

とびきりの笑顔で頷くと、理緒はアイズの手を握り締めた。

「ね、アイズ君」

「なんだ?」

「今度皆で、花火しようよ。亮子ちゃんやこーすけ君も誘って……」

「ああ」

「それから……」

「?」

「ずうっとこうしていられたら、いいなあ」

「リオ……」

華奢で小さな肩を抱き寄せる。

空気は暑いのにお互いの温もりが嫌じゃない。

互いに寄り添い、二人は打ち上がり続ける花火をじっと見ていた。

 

 

 

このまま、時間がとまればいいのにね。

 

 

 

そう思いながら。

 


 

10万HITキリリク、スパイラルのラザ理緒、でした。

アップする時期が激しくずれたために季節と

内容がそぐわないのですが本当はこれ

8月に書いていたのですよ……(泣)

倖月小夜さま、リク報告まことにありがとうございました!!

よければもらってやってくださいっ!!

 

 

 

 


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