子供だなって思うけど。

もっともっと。

全部で愛して。

紅い色に染めあげて

ぷん、と拗ねた小さな背中。

肩を滑る髪の先一本まで怒っている。

そんな雰囲気を漂わせる彼女の肩を、白い手がそっと叩く。

「リオ。何を怒っているんだ？」

「……」

肩を叩いた白い手は、小さな彼女を抱きしめる。

抱きすくめられてなお、理緒は頬を膨らませていた。

「アイズ君には関係ないでしょ？」

言う理緒の手には雑誌が握られている。

先程からずっと握り締めているものだ。

見ているページも、同じ。

「そうなのか？」

「……そうなの」

呟いて、理緒はページに視線を落とす。

そこにはアイズ出演の広告が載っていた。

『ラザフォードさんの蒼い瞳がイメージとぴったりなんですよ』

と熱意に押されて了承した記憶がアイズにはあった。

つい先日撮り下ろした新作の広告である。

アイズの隣には、一人の女性がいた。

艶やかに微笑む彼女の肩をアイズが抱き、真紅のマニキュアに彩られた女性の指がアイズの頬を撫ぜている。

『紅と蒼の共演』

キャッチコピーの横には紅と蒼のマニキュアが載っている。

「……ならそのページはなんだ？」

怒るふうでもなくそっと訊ねるアイズに理緒は答えない。

「それに……怒っているのか？」

「そうじゃ、ないよ」

ゆっくりと理緒はアイズの胸にもたれかかった。

「怒ってるんじゃないの」

甘えるしぐさにアイズの表情が緩む。

白い手が優しく理緒の髪を撫でた。

「でも、ね」

言って理緒は服のポケットから小さな小瓶を取り出した。

「？」

「あたしじゃ、この女の人みたいに似合わないなあって思って」

「それは……」

広告に載っているものと同じ、マニキュアの瓶。

色は、紅。

「綺麗だなあと思って買ったの。その後にさっきの広告見ちゃって」

「それで……拗ねていたのか？」

軽い苦笑混じりの言葉に

「ち、違うもん！！」

と慌てて否定するものの説得力はなし。

アイズは微笑むと、理緒の手からマニキュアの瓶を取り出した。

「リオ」

「ん？」

「手を出せ」

「え……うん」

乞われるままに手を見せる理緒。

アイズはその手をとると蓋を空けた。

「あ、アイズ君？」

そっと、爪先にマニキュアの刷毛を落とす。

答えることなくアイズは理緒の爪先に紅いマニキュアを塗っていく。

親指から、人差指へ。中指へ。

「意外と難しいな」

「あ、あう……」

みるみるうちに紅く染まる爪をじっと見つめながら理緒は動けなかった。

左手の爪を全て赤く染め終えて、アイズは刷毛を瓶に戻した。

「よく似合うぞ。リオ」

「あ、アイズ君……」

「動くな。渇いてない」

言って、アイズは理緒の右手をとる。

「ありがと……」

思わず声が小さくなる。

自分をじっと見つめる蒼の視線に、胸がどきどきして。

「似合って、る？」

おずおずと尋ねる理緒に、アイズは力強く頷いた。

「よく似合っている」

その微笑に、理緒もすねていた視線を嬉しげに細めた。

手を伸ばしてアイズを抱き締める。

華奢な理緒の体を抱き留めて、額にキスを落とした。

「ね……アイズ君」

温もりにとろんとしながら、理緒は唇を開く。

「ん？」

「アイズ君にも……塗ってあげよっか。マニキュア」

「……え？」

わずかに強張るアイズの声。

「アイズ君が左手に塗ってくれたから、お返しに右手に塗ってあげるね」

「リ、オ？」

やめてくれ、と言いたげに右手を振るうがその手は強く留められる。

「だめ」

くすくす笑う理緒にアイズは――しょうがないな、と右手を差し出す。

「アイズ君の指キレーだから、きっと似合うよ」

言って目を輝かせながら、刷毛をアイズの爪先に落とす理緒。

まるで子供のような彼女にアイズも、顔を崩した。

「ほら、似合ってる」

手早くマニキュアを塗り終えて、理緒は小瓶をテーブルに置いた。

「そうか？」

どこか訝しげに訊ねるアイズに理緒はうんうんと頷く。

「よく似合ってるよ」

言いながら理緒はアイズをソファに横たえた。

「リオ……」

「動いちゃだめだよ、アイズ君。……渇いてないから」

囁いて、理緒はアイズに口付ける。

マニキュアで紅く染まった指で頬を撫ぜて。

彼女からの甘えた口付けを受けながら。

アイズはそっと蒼の瞳を伏せた。

というわけで長らくお待たせいたしました。

１２４０００キリリク、ラザ理緒でしたｖ

ちょっと気だるい雰囲気にしてみよ―と思ったのはいいのですが

出来ませんでした……あちゃ（泣）

倖月さま、リクエストありがとうございました！！

これからもよろしくしてやってくださいませｖ