いつでもぎゅっとして。

そういうわけじゃないけれど。

 

 

Teddy

 

 

「わぁ、いい天気だ……!」

ベッドから起きあがりカーテンを開けると、どこまでも広がっているゼラムの青い空。

寝ぼけた頭が澄んでいくのを感じながら、マグナは深呼吸を一つ。

朝と昼の合間の空気を吸い、湧きあがって来る昂揚感を押さえられず。

マグナは踵を返して部屋を出た。

「ネス――っ!!」

ギブソン・ミモザ邸の階段をどたばたと降りるとマグナは食堂へと顔を出す。

「おはよう、ねぼすけ君。今日も良く寝てたわねぇ」

「あ、おはようございます、ミモザ先輩」

「おはよう。マグナ」

「アメルも。おはよう」

食堂には食事を終えて資料を広げているミモザと、朝食の片付けをしているアメルしかいない。

マグナの姿を見留めるなり、アメルはわずかに唇を尖らせて

「焼きたてのパン、冷めちゃいましたよ」

と手元の重ねた皿を見せた。

「ご、ごめん。アメル」

しかしマグナを咎める風でもなく、アメルは微笑むと

「今、スープを温めますから。待っていてくださいね」

「ありがとう、アメル」

マグナはテーブルにつきながら

「なあ、ネスは?」

と訊く。

「え?ネスティは……」

「ネスティなら、ギブソンの部屋にいるわよ」

二人の会話に割って、ミモザが口を開いた。

資料をテーブルに置いて伸びをすると

「さっきから二人顔付き合せて、なんかやってるみたい」

「そう、ですか」

ミモザの言葉に頷いて、マグナはアメルに向き直った。

「あの、アメル。パン……少しだけ分けてもらえるかな?」

 

 

出かける前の子供のようなどきどき感を抑えて、扉を軽くノックする。

朝食を終えて、マグナはギブソンの部屋の前にいた。

『今日はいい天気だから、ネスと散歩に行きたい』

朝起きて見た空の青さが足を動かす。

外に行って。何をするでもなく、ネスと一緒にいたい。

わがままを言えば、いつも迷惑をかけているネスティにゆっくりして欲しい。

そんな気持ちでいっぱいだった。

部屋の中からは会話が途切れ途切れに聞こえてくる。

ノックをするとそれはすぐにやみ、足音が近づいて来た。

「ネ……」

「マグナか?用事はなんだ」

ネスティの眉根にはわずかな苛立ちが浮かんでいる。

「あ……あのさ、ネス。今忙し」

「ああ。忙しいよ。今君の相手をしている暇はないんだ」

忙しい?と聞く間も与えず、ネスティは言い放ち溜息をついた。

「用件はなんだ、マグナ」

「そんなに怒るものじゃないよ、ネスティ」

と、部屋の中から苦笑の混じったギブソンの声が聞こえてきた。

「いえ……そんなつもりは」

ギブソンに振り返り、困ったような顔をするネスティ。

その表情にわずかな笑みが浮かんで。

「ネス……」

マグナはかける言葉が分からなくなって、口を噤んだ。

「やっぱり……いいよ」

そのまま、踵を返す。

「マグナ?」

声をかける、が返事は返ってこない。

マグナの背中はそのまま二階へと消えた。

「どうしたんだ、ネスティ」

部屋の中からギブソンが再び声をかける。

「……いえ」

ギブソンに振り返ると。

「すいません、ちょっと時間いただけますか?」

とネスティは部屋を出た。

 

 

テラスに出ると青い空と気持ちよい風。

きっと、外に遊びに行けば楽しいに違いないけれど。

「……」

テラスの椅子に座り、マグナは膝を抱えた。

ネスティのギブソンに対する尊敬の気持ちは知っている。

知っていても、聞きわけたくない。

ネスティにしては何気ない笑顔であっても、自分には重たくのしかかる。

「ネス……俺のこと嫌いなのかな」

思わず呟く。

そうでない、と思いたい。

ふとしたときに抱き締めてくれたり、名前を呼んでくれたり。

どうしようもないくらいに好きなのに。

ネスティの行動一つに怒って、わがまま言って。

「……」

ただ、あの瞬間。

ネスティに笑顔を向けられたギブソンがたまらなく羨ましかった。

何気なくテーブルの上に置いたバケットを見る。

「パン……冷めるかな」

思うと何だかさらに辛くなって、マグナは目を閉じた。

「マグナ」

そのとき。

後ろから声をかけられて、マグナは振り向いた。

「ネス……」

「どうしたんだ?何の用事かも言わずに勝手にどこか行くような真似はするな」

「……うん」

来てくれたんだ。

思うと嬉しくて。

マグナはくしゃりと顔を歪める。

「そんな顔しないでくれ。……心配になる」

「え?」

ぽつりと呟いた言葉は聞こえない。

けれど、次の瞬間。

ぎゅっと抱き締められてマグナはもやもやしていたものが飛んでいくのを感じた。

手が優しく頭を撫でてくれるのを感じて、そのまま目を閉じる。

心地良くて。

「ネス……」

マグナはネスティの背に手を回して、言った。

「ごめん……」

 

「ハイキング?」

「うん。天気がよかったし、ちょっと遠出したいなあって思ってさ」

しばらくして。

落ちついたマグナとネスティは顔を付き合せて話していた。

「少し……ネスにはゆっくりして欲しくて」

マグナの語る計画に苦笑し、ネスティは軽くマグナの額を小突く。

「君はバカか?」

「え」

「最後まで言ってくれればいいものを。途中で話を切り上げるから二度手間になるんだ」

「うう……ごめん」

しょぼくれるマグナに、溜息一つ。

「まぁ……」

とネスティは椅子から立ちあがり、マグナの頭を撫でる。

「今しているギブソン先輩との作業が終われば、暇になるから。行こうか」

「本当!?」

マグナの笑顔にネスティも嬉しげに頷く。

「ああ。たまには君の心遣いに甘えることにしよう」

「ありがとう、ネス」

「じゃあ少し待っていてくれ。出来るだけ早くに仕事を終わらせてくるから」

「うん!」

やや早足で階下へ行くネスティの後姿を見送って、マグナはこみ上げて来る嬉しさに笑った。

ゼラムの空は青い。

まだ昼も始まったばかりだから。

「もう少し、待っていようかな」

マグナはテーブルに肘をつき、寝そべった。

 

 

「どうして君はいつもそうなんだ!」

「だ、だからごめんって……」

「言い訳は聞くつもりはない。約束は約束だ」

「うう……」

「……あの、ミモザさん。ネスティとマグナ、何であんなに喧嘩してるんです?」

夜。

ゼラムもどっぷり群青色に染まった頃。

食堂でネスティはしょぼくれるマグナに声を荒げていた。

その光景を不思議そうに見ながら、アメルはミモザに紅茶を差し出す。

「ああ。何でもマグナがネスティをハイキングに誘ったみたいなんだけど」

「そういえば……マグナ、パンを持って行きましたよね」

「マグナ、ネスティを待っている間に寝ちゃったんだって」

「……え」

目を瞬かせるアメル。

いくらなんでも、と驚くが後ろで繰り広げられている説教は事実。

「……マグナらしいですねぇ」

「まあね。放って置けば仲直りしてるでしょ」

ミモザは笑い、肩を竦める。

「ですね」

同じく笑ってアメルも頷いた。

いつでも一緒にいる二人だから。

仲直りだってきっとすぐに違いない。

そう、思った。

 


 

アップするのが遅くなってしまい、申し訳ありませんっ!!

随分前に書き上げていたのですが遅くなってしまい…(汗)

リクエスト、まことにありがとうございました!

これからどうぞ、よろしくお願いいたします!

 

 

 

 


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